昨年、11月10日の航空自衛隊の岐阜基地航空祭にて、防衛装備庁の先進技術実証機X-2が公開されました。今回は、これまでの航空祭では隠されて展示されていた、機体後部を含む360度全周から機体を観察する事ができました。
X-2は、将来戦闘機開発における要素技術の実証、とりわけステルス技術のノウハウ蓄積を目的として、製造されました。外観は、通常の戦闘機にも見えますが、兵装の搭載能力はなく、機体サイズも小型になっています。このX-2は、あくまで技術の実証検証の目的とした試験機であり、この機体をベースに、新戦闘機が開発されるわけではありません。
正面から見ると、ステルス性を考慮した設計がよくわかります。空気取り入れ口は、F-22などと同様に、垂直安定板と同じ傾斜がつけらたひし形をしており、F-35のようなDSIを採用せず、境界層隔壁を持つ古典的な形状をしています。
側面か見ても、シルエットはF-22と似ている部分も多いです。レーダー反射を低減する設計をするため、幾何学的に一致してしまう面が多いのでしょう。水平安定板やフラップ、スラットが垂れ下がってますが、電源が入っておらず、作動部の油圧が抜けているためです。
主翼の部分を拡大します。簡素なクリップトデルタ翼形式で、後縁の角度も控えめなのが気になりますが、実証機として妥協したのか、この後縁の角度でも十分なステルス性が保つことができるのかは、素人目にはわかりません。一方、主脚収納部の扉のモールドなど、ステルス性を意識した設計が目に留まります。
緊急用のアレスティングフックも備えているようです。
後ろから見ましたが、F-22やF-35にも、アレスティングフックは搭載されていますが、ステルス性のためカバーに収められていますが、X-2にはそのようなカバーがありません。やはり実用機ではなく実証機という所で、細かい面での妥協がある事は否めないようです。(試験項目上は、重要でないという事かもしれません)
水平安定板は、F-22の物と異なり、むしろF‐35に近い作動範囲、構造であるように見えます。
そして、本機の特徴的な箇所である尾部の、推力偏向パドルです。3枚のパドルで、噴射するジェット排気の向きを曲げて姿勢を制御する事で、通常の航空機には不可能な機動をとる事ができるようになります。この3枚の推力偏向パドルは、NASAのF-18 HARVと、米独の共同開発実験機X-31などにも採用されています。ステルス機では、ノズル方式が主で、F-22にピッチ方向のみの推力偏向ノズル、ロシアのSu‐57などのピッチ・ヨー方向にもコントロール可能なものが存在しています。このパドル方式では、ピッチ・ヨーのコントロールが可能です。
動画は、X-2と同じく、推力偏向パドルを備えたX-31に関するものです。機動性などの参考に。
通常の操縦翼面では、速度や高度があがると、機体の制御が難しくなりますが、この推力偏向パドルにより、それらを考慮しない機体制御が可能になります。また、X-2の操縦翼面、推力偏向装置は、コンピューターに制御されており、パイロットは、コントローラーで機体をどのように動かしたいかを指示するだけで、微細なコントロールを機体側が自動的に行います。これにより、戦闘機パイロットは、機体の操縦ではなく、攻撃や戦闘など作戦の遂行に集中できるようになります。これらは、F-35など最新鋭戦闘機も同様で、操縦資格の緩和なども検討されています。
X-2では画像の通り、パドルを作動部やケーブル関係、ボルト類などが露出しています。一般的にこのような点は、ステルス性という面では不利とされていますが、実証機である以上、このポイントにおいては、推力偏向パドルにおる機体制御や高機動性などを試験する事に重点を置き、ステルス性という面ではある程度の妥協があったものと思います。
XF5-1は、X-2に搭載されているアフタバーナ付低バイパス比ターボファンエンジンです。IHIが開発・製造しました。小型で、エンジンそのものの推力は49.5 kNと控えめですが、推力重力比については、およそ8:1程度と、この点は、GE社のF404など、他の戦闘機エンジンに十分匹敵する性能は有しています。
X-2では、開発費を抑制するため、可能な限り、既存の機体からパーツを流用しています。
降着装置は、T‐2練習機からの流用です。
これらはT-2/F-1の降着装置ですが、同じ部品が使われている事がわかります。
キャノピーは、T-4練習機からの流用ですが、電波反射を防ぐため、酸化インジウムスズでコーティングされています。
こちらはT-4練習機で、キャノピーが共通である事がわかります。
飛行試験で、使用された標準ピトー管。より正確なエアデータを得るための、長い計測用のピトー管です。
X-2は2017年10月までに予定されていた試験メニューを、すべて終えており、現在は岐阜基地で保管状態にあります。今後の処遇はまだ未定ですが、今後一切空を飛ぶ姿が見られることはないのかもしれませんし、ステルス技術という機密上、解体される恐れもありますが、現時点で、X-2の今後の処遇ははっきりとしていません。
もし、完全に役目を終えて、保存されるなら、岐阜基地のすぐそばにある、かかみがはら航空宇宙科学博物館に、収蔵される可能性も濃厚であると考えます。
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